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パネル1

21世紀における多次元的ロシア音楽研究
――個と社会が交差する場としてのロシア音楽――

 

コーディネーター

一柳富美子(東日本支部)

 

パネリスト

一柳富美子(東日本支部)
石井優貴(東日本支部)
野原泰子(東日本支部)
山本明尚(東日本支部)

  

 社会主義時代に展開されたロシア音楽研究の本質的な欠点が近年一層明らかになった。革命以前の音楽に対しては社会動向を無視した個々の音楽家中心の研究に拘泥し、逆にソ連時代の音楽は共産党主導の本流からのみ捉え、どちらの時代も実際の音楽生活には殆ど関心が払われなかった。本企画では、その欠点が生じた背景を明らかにし、ロシア音楽の重要トピックを選んで新たな知見を紹介することによって、21世紀における多次元的なロシア音楽研究のモデルを提示する。

 先ず一柳は「19世紀ロシア音楽界とチャイコーフスキイ」という題目で、新聞雑誌記事や音楽教育の現場等のデータを示しながら、チャイコーフスキイのキャリア初期にピアノ作品が量産された背景を説明する。続く山本は「プロレトクリトの音楽創作活動とその歴史的意義」を発表する。労働者階級教化を旨として十月革命直後に活動したが従来の言説資料では殆ど無視されてきたプロレトクリトの歴史的意義を示し、彼らが創作活動において果たした役割を明らかにすると共に、初期ソ連の音楽史記述における「前衛対プロレタリアート」という構図の脱構築をめざす。野原は「日本の洋楽史における来日ロシア人」に着目し、「来日ロシア人研究会」の活動を軸に先行研究を総括した上で、1925年の日露交歓交響管絃楽演奏会(ハルビン在住のロシア人音楽家と、山田耕筰が率いる日本交響楽協会の合同演奏会)を取り上げ、複数の脈略(亡命ロシア人/交響楽演奏史/山田とロシア音楽界の接点)での位置付けを試みる。最後に石井が「ソヴィエト音楽史再考の中の室内楽とショスタコーヴィチ」と題して、社会主義リアリズム音楽の規範に沿わず社会動向から隔絶した私的な音楽として扱われてきた室内楽が、実際にはソヴィエト音楽界の状況と密接に関連して発展した可能性を示し、その一例としてショスタコーヴィチ作品にまつわる事例を検証する。

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