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J-3 明木茂夫(中部支部)

京劇はなぜジンジュになったのか
──学校音楽教科書における中国音楽用語のカタカナ表記について──

 現行の学校音楽教科書においては、楽器名などの中国音楽用語がすべて中国語読みのカタカナ表記になっている。具体的には「ピーパー」(琵琶)、「グージョン」(古箏)、「ション」(笙)、「ジンジュ」(京劇)などである。しかも多くの場合これらはカタカナのみで表記され、漢字が全く添えられていない。またこうした現地音表記主義のために、中国の「ピーパー」が「琵琶類」とは別の楽器として扱われているなど、疑問を感じる記述が散見される。中国の歌にカタカナの歌詞が付されていること自体はよいとしても、同系統の発音に異なるカタカナが用いられるなどの不統一が見られる。こうしたカタカナ表記は、『教育用音楽用語』の平成六年(1994)改訂版から導入されたものである。またこの改訂は平成元年(1989)の『学習指導要領』改訂に「諸外国の民族音楽」特に「アジア地域の民族音楽」を扱うことが盛り込まれたことを受けてのものである。

 その一方、中国の固有名詞から漢字を廃し、中国語読みのカタカナ表記とすることは、社会科において早くに始まった方式である。現在の社会科教科書・地図帳では、例えば「ティエンチン」「コワントン」「チュー川」「ワンリー長城」のように基本的にカタカナ表記の地名になっており、さらに「孫文(そんぶん/スンウェン)」のような人名の二重ルビも見られる。発表者の調査により、昭和20年代に導入された社会科のカタカナ表記は、そもそも現地への配慮などに発するものではなく、漢字廃止・漢字制限政策の一環であったことが判明している。では音楽科と社会科のカタカナ表記の間にはどのような関係があるのだろうか。本発表では、音楽科と社会科の教科書や教師用指導書におけるカタカナ表記の実例を踏まえつつ、それぞれの表記方式の差異や特徴を語学面から明らかにし、さらにカタカナ表記の導入の意図や運用の実態などについて考察を加えたい。

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