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C-1 木内 涼(東日本支部)

アンブロワーズ・トマの《カイド》(1849)
──19世紀中葉のオペラ=コミックにおける「喜劇性」に関する考察──

 19世紀フランスのオペラ=コミックは、より真面目な題材が主流となり、音楽的な部分の増加によって、「グラントペラ」に近づく傾向がみられた。その一方で、1850年前後、かつてのジャンルの復活ともいうべき「喜劇的な」オペラ=コミックの初演が集中する。こうした、ある種の流行を検証対象とすることは、変化の只中にあったオペラ=コミックの同時代的なジャンル観を捉える上で、有益な視点となろう。

 その一例として、本発表では、1849年1月3日にパリのオペラ=コミック座で初演された、アンブロワーズ・トマ(1811-1896)とトマ・ソヴァージュ(1794-1877)による《カイド Le Caïd》を取り上げる。この作品は、パリ初演後、ブリュッセルやロンドンなどヨーロッパ各地で上演されたのみならず、同劇場において1911年までレパートリーに残った人気作のひとつでもある。また、フランス領アルジェリアを舞台に、登場人物やプロット、初演時の衣装などにも当地をイメージさせる要素が散見される。従来の研究では、そうした台本にみられる19世紀的な異国趣味との関連から論じられることが多かった(Lacombe 1999, Zechner 2016)。当時、そうした主題に「喜劇的なもの」が見出されていたことは確かであろう。しかしながら、同時代の批評家の見解では、チマローザやロッシーニといったイタリア人作曲家による「ブッファ」作品との関連が頻繁に引き合いに出された(Gautier 1849, etc.)。こうした状況から、異国趣味という視点のみならず、音楽的特徴に着目することで、その「喜劇性」の指摘を試みる。

 《カイド》の分析からは、ロッシーニ作品を想起させる急速な言い回しや、言葉の繰り返し、オノマトペの使用による滑稽さの表出などが指摘される。本発表では、こうした特徴から、《カイド》と、その初演の数年後にパリで流行するより大衆的なオペレッタとの音楽的な関連性を示し、当時の「喜劇的な」オペラ=コミックの受容実態について検討する。

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