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D-2 小岩信治(東日本支部)

シャルヴェンカ《ピアノ協奏曲第1番》にみる「未熟な」ショパン

 

 19世紀後半のピアノ協奏曲については、今日でも演奏される数曲について一定の先行研究があるものの、それらを含むジャンルの歴史的展開の検証は本格化していない。たとえばこの時期の「名曲」の一つ、チャイコーフスキイの《ピアノ協奏曲第1番》変ロ短調作品23(1875)の完成までに作曲者が何を学び、また当時の音楽界がどのような状況にあり、どのような競合作があったのか。これらの問いに十分に答えられない現状は、重要な音楽ジャンルに関して、そして上記作品に関して、今日の理解が一面的である可能性を示している。

 この発表では、今日ほぼ忘れられている当時の成功作のひとつ、クサヴァー・シャルヴェンカ(Xaver Scharwenka, 1850-1924)の《ピアノ協奏曲第1番》変ロ短調作品32(1875-77)について、その第1楽章の形式がこのジャンルの先行例とどのように関わっているのかを問う。シャルヴェンカはこの作品において彼独自の形式を開拓するにあたり、同じポーランド出身者のショパンの2曲(ヘ短調、ホ短調、1829-30)、またそこでの取り組みを発展させた後年のたとえば《幻想曲》ヘ短調作品49(1841)を参照したのではないか。

 考察の結果として、この作品がこのジャンルの19世紀を要約的に示す「鳴り響く音楽史」として作られた可能性を指摘する。先行研究が明らかにしてきた当時の「シンフォニックなもの」への志向とともに、当時のピアノ協奏曲には人々が傾聴し、音の響きの先を聴き取ることが求められる「クラシック音楽」化が見てとれ、それはわずか数十年前とは全く違う、軽く聞き流せないジャンルになっていた。今後「名作」を含めた個別研究が蓄積されていくことで、シャルヴェンカの作品32はブラームスやサン=サーンスの作品の一部とともに、このジャンルの19世紀後半の重要な潮流を証するものとして位置づけられることになろう。

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