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J-1 飯野りさ(東日本支部)

シリア正教会の聖歌における八旋律群の諸特徴
──音文化的視点から考える──

 

 シリア正教会といえば、民族音楽学では聖歌の伝統で知られている。ミサや聖務日課で歌われる膨大な数の聖歌群は典礼暦の規則に従って八つの旋律群に分類されていることから、この八つのグループを八つの旋法群とみなす傾向がこれまでの説明にはあった。この傾向は、特にアラブ音楽の知識のある関係者の間に流布している。その一方で、近年のジャルジュールによる研究(Jarjour 2018)にも見るように、この見解の妥当性には疑問符も呈されている。そこで本発表では、八旋律群を旋法群ととらえる見解の妥当性をまずは確認するが、その一方でそうした枠組みを超えて、むしろこの旋律群が発展してきたシリア正教会の音文化的背景を踏まえた上で聖歌群の音楽的特徴を捉えることができないかを考えたい。その際には、教会という宗教的枠組みやシリア語文化の中で発展してきたことを考慮するとともに、シリア正教会が歴史的に発展してきた地域(トルコ南東部およびその周辺)の音楽との関連性も考える。

 発表では、最初に典礼暦やその中での聖歌の運用状況などシリア正教会の聖歌群に関わる教会文化的な事項を簡単に説明する。典礼暦は一年が八つの期間(サイクル)に区切られ各サイクルは基本的には八週間で、旋律群の八つのグループ分けはこれに基づいている。こうした状況で使用される旋律群は一テキストに固定的な旋律しかないものと、一テキストに複数の旋律のあるものに分類される。そこでまず旋法に関する分析のために、聖務日課で使われ一テキストに複数の旋律のあるコーロー(聖歌の一種)とボーウーソー(聖歌の中でも嘆願歌の一種)を取りあげるが、必要に応じて他のものも使用する。なお、分析の対象となっている旋律群はこれまで発表者がフィールドワークで体験したり録音したりしたものだけでなく、今日、インターネットやスマートフォンのアプリなど様々な形でアクセス可能となった録音群も含まれている。

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