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B-3 木村 遥(西日本支部)

L. モーツァルト《農民の婚礼》におけるライアーの演奏技法

 本発表は、レオポルト・モーツァルト(1719-1787)の《農民の婚礼》LMV VIII:6(1755)にライアーという楽器が使用されていることに着目し、本作品における当該楽器の特異な役割とその背景を明らかにするものである。

ライアーは、中世以来ヨーロッパ全土で演奏されてきた弦楽器である。この楽器は右手でクランクを操作し、ホイールを回転させて擦弦する機構をもつ。特筆すべきは、クゥ・ド・ポワニェと呼ばれる、ホイールの初速をあげることでうなり駒を振動させる演奏技法を有することである。当時、ライアーはフランスにおいてヴィエルという愛称で親しまれていたが、両者はホイールの直径が異なり、ライアーは一般的に14 cm以下であるのに対して、ヴィエルは14~17 cmであった(Nagy 2006)。こうした差異はクゥ・ド・ポワニェの表現や楽器の音量、作品の演奏編成にも影響をもたらしたと考えられる。実際に、フランスでは通奏低音を伴う二重奏の作品が数多く作曲されたのに対して、ドイツでは室内管弦楽の独奏楽器として取り上げられてきた。後者のうち、ライアーは舞曲や行進曲の性格をもつ楽章に登場する傾向にあり、この特徴は《農民の婚礼》にも確認できる。

 以上をふまえて本発表では、ホイールの大きさとクゥ・ド・ポワニェの関連性を検証したうえで、この技法が舞曲や行進曲の演奏に適したものであったことを指摘する。まず、本作品がアウクスブルクのコレギウム・ムジクムによって初演されたことを考慮し、レオポルトの書簡およびコレギウム・ムジクムの活動記録を調査し、作品の成立背景を整理する。次に、ホイールの操作方法についてJ. B. デュピュイ(fl. 1741-1757)とM. コレット(1707-1795)の教本(1741, 1763)を、本作品の読譜に際してはレオポルトの『ヴァイオリン奏法』(1756)を参照する。これらをふまえて、あらためて《農民の婚礼》を分析し、ライアーによるクゥ・ド・ポワニェの技法が本作品の演奏に必要不可欠なものであったことを明示する。

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