日本音楽学会第71回全国大会
K-2 佐野旭司(東日本支部)
20世紀初頭ウィーンの創造的音楽家協会
──「第4回歌曲の夕べ」の作品に見る新たな試み──
前回の発表では、創造的音楽家協会の公演で演奏された作品の様式の問題について、室内楽曲に焦点を当てて考察した。それに対し今回は歌曲、とりわけ室内楽曲と作曲家の重複が目立つ「第4回歌曲の夕べ」の曲目に着目する。
創造的音楽家協会は1904~05年にウィーンで活動し、シェーンベルクらが中心となって演奏会を通して当時の新しい作品を広めていた。そして演奏会を8回開き、数多くの作品を演奏している。中でも「第4回歌曲の夕べ」ではレーガー(作品70より)、R. シュトラウス(作品36-2ほか)、プフィッツナー(作品3-2ほか)、ヴェス(作品35)など、主に当時を代表する作曲家の曲が演奏された。
彼らの作品では特に和声に特徴が見られ、それぞれの方法で従来の手法から脱却する試みが窺える。今回はこれらの曲の手法が具体的にどのようであるかを詳しく検討したい。さらに前回扱ったプフィッツナーとレーガーの室内楽曲や、同協会の最初の公演で演奏されたシュトラウスの《家庭交響曲》にも目を向け、上述の彼らの歌曲と和声の手法を比較する。それにより、協会が新しい様式と認めた作品にどのような傾向が見られるか、これらの作曲家に焦点を当てて考察したい。
両大戦間には「拡大された調性」への傾向が強まるが、本発表で扱う歌曲の多くはそこで見られる手法を先取りしている。したがってそのような作品を重視した創造的音楽家協会の活動が、後年の様式的傾向の先駆けとなったといえよう。
20世紀初頭のウィーンではいわゆる後期ロマン派から近代へと時代が変化したが、創造的音楽家協会は、その転換期に当時の新しい音楽を広める活動をしている。この協会に関する先行研究は少なく、その活動と作品の様式との関係については研究されていない。本研究は、この協会の活動がそのような時代様式の変化にとってどのような意味を持ったか、という問題の一端を明らかにできるだろう。