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D-1 林 香里(東日本支部)

ショパンの全ピアノ作品における作曲原理としての「響き」
──10度音程、オクターヴユニゾン、単音・単旋律に注目して──

 本研究の目的は、ショパンの全ピアノ作品を書法の観点から分析したサムスン(1995/ 2012)に立脚しつつ、さらに「響き」の観点で捉え直すことにある。

 従来の作曲家論は、時系列でジャンル別の概説により洞察が四散し、通底した観点を欠いていた(サムスン)。これに対し、サムスンがショパンの全ピアノ作品を取り上げ書法の変化を統一的に捉えた功績は大きい。が、1846年以降に現れる「不協和対位法」を「新たな関心」としつつ、その他にも音楽の中断、曖昧な形式などの「不可解な」事象がショパンの作曲にもつ意味は未検討である。

 そこで本研究は、「響き」としての10度音程、オクターヴユニゾン、単音・単旋律の用法の変化とそれが生み出す「響き」の意味の変化を示し、上記の「不可解な」事象がショパンの作曲にもつ意味を検討する。

筆者は修論で①10度音程がエチュードで演奏技術の習得の用法から「響き」を生成する用法(ここでは和声的に新規な「響き」の意味)へ変化したことを示した。さらに本研究では次の点を指摘する。すなわち②オクターヴユニゾンが他のジャンルに先駆けた実験を試みているマズルカで舞踏に伴う声楽を暗示する用法からセクションの劇的な転換の用法(形式設計する「響き」の意味)へ、③そして当のオクターヴユニゾンがポロネーズ、バラードなどでは独自のジャンルの性格付けの用法(ジャンルを生み出す「響き」の意味)へ変化し、さらに④単音・単旋律が音楽の突然の中断後現れると、または稀に、単音・単旋律が「不協和対位法」へ音楽を導くと、聴き手を現に鳴っている単音・単旋律の「響き」に集中させる用法(或る概念で捉える以前の、音自体としての「響き」の意味)に至る。

 このように、ショパンの全作品に通底する作曲原理を、和声や形式といった従来の概念を基礎としつつ、「響き」で捉えることで、サムスンが捉えきれなかった「不可解な」事象をも通底して捉え得る新たな観点を提示したい。

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