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G-1 砂川巴奈歌(東日本支部)

18世紀初期フランスにおける器楽と「詩」の関係
──ユベール・ルブランの言説を中心に──

 

 18世紀初頭のフランスは伊仏音楽論争が繰り広げられた時期であり、当時の詩と音楽を巡る言説はもっぱらオペラ論争に通じている。しかし、当時出版された器楽の実践に関する理論的著作や教則本には、作品の形式を「詩」との類似性から説明しようとする記述が見られる。ユベール・ルブラン著『ヴィオル擁護論』(1740)では、フランスの伝統的な組曲形式を持つ楽曲(ピエス)と当時イタリアからもたらされたソナタを比較する記述において、両者の違いが「詩」と「散文」という言葉を用いて論じられる。音楽が詩と比較して論じられる際に陥ることのある、恣意的な隠喩表現には注意しなければならない。とはいえ、同時代のフランソワ・クープランの《ヴィオル組曲》には、ルブランの考察に通じる作曲姿勢が見られる。加えて、クープラン自身も著書『クラヴサン奏法』(1716)において、やはり詩の「韻文」と「散文」の区別と比較して、プレリュードの奏法について説明している。詩と音楽は別個の芸術であり異なるコードで表現されるものだが、彼らの言説を通して推測されるのは、当時のフランスにおいて、歌詞を持たない器楽曲が詩とのアナロジーとして説明される傾向があったということである。

 本研究は、ルブランの言説を中心として、17世紀後半から18世紀前半にかけてフランスで出版された器楽実践に関わる著作を調査し、「詩」と関わる言説について考察する。発表では、バロック期のフランスの器楽作品が、いかなる音楽的特徴をもって「詩」や「散文」と比較して論じられたのかを具体的に示す。それによって、従来の研究ではさほど注目されてこなかった当時の器楽作品創作と「詩」の影響関係が示唆されるだろう。

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