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L-4 石橋鼓太郎(東日本支部)

野村誠の音楽実践における偶然性
──「千住だじゃれ音楽祭」におけるふるまいの分析を中心に──

 本発表は、現代日本の作曲家である野村誠の音楽実践と、実験音楽における偶然性の美学との関係を明らかにすることを目的とする。

 野村誠は、1968年生まれの日本の作曲家であり、音楽の専門家ではない人々との「共同作曲」や即興演奏、音楽ワークショップなどを中心とした活動により知られている。その活動は、社会包摂や参加型アートの文脈において語られることが多かったが、その音楽史的な意義や位置付けについては、十分に明らかにされてこなかった。

まず、野村の著作や日記、インタビューから、その音楽実践が米英を中心とした実験音楽、特に1960-70年代のイギリスにおいて非専門家の技術的な非洗練に偶然性を見出したコーネリアス・カーデューやギャビン・ブライヤーズを中心とした系譜に強い影響を受けたものであることを確認する。

 次に、野村の現在の中心的な活動の一つである市民参加型のプロジェクト「千住だじゃれ音楽祭」への参与観察に基づいた記述と分析をおこない、ここにおける偶然性が、以下の二つの特徴を持った野村のふるまいによって担保されている点を明らかにする。一つ目は、参加者やスタッフ、主催者など多様なアクターの関わり合いによって偶発的に出来事が生じる余地を残し、それらを可能な限り排除しないために、企画や楽曲、演奏の内容を本番の直前まで決めずに開き続けている点。二つ目は、その結果として生じた出来事を可能な限り活かす音楽の構成を、作曲家として引き受けている点である。

 偶然性に基づく従来の音楽実践は、音楽内の素材を超えたアクターとの関係を考慮しないことによって制約が生じている点、あるいは音を構成する作曲家という主体を放棄することによってその存在意義を危うくする点において、問題が指摘されていた。野村誠の音楽実践は、これらの問題点を乗り越える契機を含み込んでいることを明らかにする。

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