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E-4 中島 康光(中部支部)

ツァルリーノ『調和概論』の規則に先行する二重対位的手法
──デュファイからオケゲムまでの作品に見る実践の諸相──

 ツァルリーノの『調和概論』において記述された二重対位法の規則には、その起源について言及がないため、規則自体が伝えられたのか、実作品から導き出されたのかは明らかでない。私は先の研究で、「調和概論」に示された二重対位法によるカノンの規則が、ジョスカンのミサ《フェラーラ公エルコレ》に含まれる三声カノンにほぼ合致することを見出し、故に『調和概論』より前に何らかの規則が存在した可能性を考えた。

 本研究ではジョスカンから遡り、デュファイ、バンショワ、オケゲム及びその周辺の作曲家について調査し、二重対位的手法の実践状況を把握した。同時代の作品について同様の視点から調査した事例は少なく、当時の作曲法の一端を紐解き、また二重対位的手法の発展を窺う上で、本研究が一助となることを期待する。

 調査の結果、バンショワのように殆んど二重対位的手法を用いない作曲家もいたが、調査の対象とした作曲家の多くに二重対位的手法が見られた。ただし『調和概論』の規則に合致するものは少なく、また上記のカノンのように曲全体が二重対位的手法で作られたものはなかった。

 年代を追ってゆくと、声部間で旋律が入れ替えられる際の音程が、次第に広がってゆく傾向が見られた。すなわちデュファイの作品には同度から8度までしか見られなかったのに対し、オケゲムやビュノワでは10度や12度での入れ替えも見られた。ただしビュノワには7度での入れ替えもあり、後の規則に近づいているとも言い切れなかった。

 調査の中で模倣やそれに伴う二重対位的手法が、定旋律等を除く全ての声部において行われている事にも注目された。これはデュファイにおいてすら、すでに全ての声部が対等に扱われつつあったことを意味する。そして『調和概論』に示されたような二重対位法の規則が成されたとすれば、それはオケゲム以降の世代において、通模倣様式が成熟する中で形成されていったことが考えられた。

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