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L-3 葛西 周(東日本支部)

「聴取の場」としての観光地
──通ジャンル的聴取論に向けて──

 

 本発表は、日本の観光地における音楽実践を研究対象とし、パフォーマンスの場の特性、内容や形式、そして聴衆の聴取態度のあいだの相互作用について検討するものである。時代やジャンル、聴取層による聴取態度の差異を取り上げてきた従来の聴取論は、専ら「音楽を聴くことを目的とした聴取」を念頭に置いていると言えるだろう。他方で観光地の舞台においては、多様な音楽や芸能がわかりやすくショーケース化されて、観光客がそれぞれ自由なタイミングでパフォーマンスを楽しむ様子が垣間見られる。彼らは必ずしもそこに音楽を聴きに来ているわけではなく、コンサート・ホールやライブハウスの聴衆のような、音楽的嗜好や経験をある程度共有するコミュニティは成立しない。上演中に出入り可能な構造や、飲食・歓談スペースに併設された舞台などからも、「散漫な聴取」が端から前提とされていることが容易に看取できる。

 そこで本発表では、このような舞台が「散漫な聴取」に適したパフォーマンス形式の発展を促してきたという仮説を立て、特に温泉地の宿泊施設にある舞台に着目して、大正期以降に各地で展開されてきたショーの事例からパフォーマンス形式の共通性について考察する。具体的には、温泉地の常設舞台専属団体および温泉地を巡業する公演団体の上演背景や内容を、広報誌、旅行案内や新聞雑誌等の資料調査により比較分析する。事例には、少女歌劇や大衆演劇、ハワイアンショー、郷土芸能・伝統芸能等のバラエティショーが含まれる。ここで注目すべきは、異なるジャンルの音楽をそれらに固有の演奏慣習や文脈から時に切り離し、同じ舞台に並列する装置としても、観光地の舞台が機能してきた点である。これまでの聴取論は音楽ジャンルごとの慣習と避けがたく結びついてきたが、このような事例を扱うことで、ジャンルを問わず共通する聴取のありかたについて論じるための視座を提示したい。

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