top of page

C-3 小林佳織(東日本支部)

オペラ座の新作におけるJ.マスネの音楽様式
──《アリアーヌ》(1906)と《バッカス》(1909)──

 本発表は、フランスの作曲家ジュール・マスネ(1842-1912)のパリ音楽院教授辞任(1896)以降の作曲専念期におけるオペラ座での創作傾向を詳かにすることを目的とし、現在注目を浴びることの少ないオペラ座初演の《アリアーヌ》(1906)と《バッカス》(1909)を取り上げ、作品内容と背景に迫る。

 オペラ座の上演記録によれば、20世紀初頭のオペラ座では、マイヤベーア、グノー、サン=サーンスやフォーレ、そしてワーグナー作品を並行して上演しながら、ローマ賞受賞者のオペラを上演し新作上演にも注力している。しかし新作の多くは1年、あるいは2・3年で上演が途絶えている。《アリアーヌ》は一度成功するものの3年で上演が止まり、一方《バッカス》は大失敗と言えるほど大衆に受け入れられず、6回で打ち切りとなっている。

両作品は、ギリシャ神話に新たな物語を一部加えた点、序曲の短縮、合唱や楽器を用いた「遠くからau loin」あるいは「見えない invisible」演奏、間奏曲の使用などが共通している。また《バッカス》第一幕では、音楽を背景にセリフを長く朗唱する場面が設定されている。その台本には韻文を採用したことも注目すべき点である。

合唱などを舞台袖や裏から演奏させる方法は、マスネの常套手段であり、オペラやオラトリオ、バレエ等、作品全体に多くの類似例が見られる。一方、朗唱は《フェードル》(1900)、《イエルサレム!》(1914)などの音楽付随作品の作曲方法である。死後上演となるオペラ《アマディス》(1922)でもプロローグが語りのみで進行する手法を使用しているため、マスネが自身のオペラに新たに加えた1つの表現方法と捉えられる。

 マスネは創作意図を語ることがほとんどなかったため、基礎的な分析と他作品との比較が重要となる。以上のように、オペラ座におけるマスネの新作創作の一例を示しながら、マスネ研究及びフランス・オペラ史研究に貢献し得る、複眼的視点を提示する。

bottom of page