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K-3 齋藤由香利(東日本支部)

A.ツェムリンスキー《12の歌曲》作品27の出版譜の問題
──自筆譜に基づいた新たな校訂に向けて──

 本発表は、アレクサンダー・ツェムリンスキー Alexander Zemlinsky(1871-1942)作曲《12の歌曲》作品27(1937-38、以下作品27とする)のエディションの問題点を指摘し、新しい校訂版の必要性を説くものである。

彼が最後の作品番号を付けた作品27は、第二次世界大戦直前という当時の世情もあり、作曲者の生前には出版されなかった。1978年にようやく Mobart Music Publications から出版され、これが現在唯一の出版譜である。しかし、この出版譜には校訂報告もなければ、校訂者も書かれておらず、自筆譜と見比べると記譜の抜け・間違いの他にも、検討の余地がある箇所が散見される。それらは、現在確認できる録音にも影響を与えている。またアメリカで出版されたためか、独語テクストの下に英語テクストが並記され、両者で音節の数やアクセントの場所が異なる場合には、同一五線内に2つの旋律が記されており、見辛い。

 作品27は作曲者の生前に、内2曲が英語で演奏された記録がある。しかし、モーリス・ライトから、出版譜の英語テクストの作成もそれに対する旋律の適合も、彼が行ったものだという情報を得た。よってこれらにツェムリンスキーは関わっておらず、独語歌唱の楽譜を作るにあたっては省いても問題は無い。更にツェムリンスキー研究の第一人者であるアントニー・ボーモントの、ツェムリンスキーの他作品の楽譜の校訂報告を参考に、作品27の自筆譜と出版譜を見比べたところ、出版譜では省かれたり変更されたりしている演奏記号にも、演奏に関わる作曲者の意図が込められていることがわかった。

 また発表者は、ボーモントの先行研究にて出版譜の校訂者だと明かされているジャック=ルイ・モノ(1927— )に連絡をとったが、インタビューや彼の職歴に関する質問には答えないという返答であった。モノの年齢を考えても、今後校訂報告が出されることは期待できないと思われる。

 発表においては、以上の内容に加え、具体的な出版譜の問題のある箇所を挙げ、校訂案を提示する。

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