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I-2 前田裕佳(東日本支部)

ピアノ作品におけるスペクトル音響構造の諸傾向
──J. ハーヴェイ、M. リンドベルイ、P. ルルーを例に──

 

 本発表は「スペクトル第2世代」とされる作曲家群によるピアノ作品について、それらの音響構成法の特徴を明らかにするものである。副題に記した作曲家の3作品を分析した結果、ジョナサン・ハーヴェイ Jonathan Harvey(1939–2012)の《ff》(1995)に関しては、半音差のスペクトル合成音響と半音階で構成された音響が交互に配置されていることが、マグヌス・リンドベルイMagnus Lindberg(1958-)の《Jubilee Ⅴ》(2000)に関しては、創作初期から引き継がれたシンメトリックな音響がスペクトル音響の中に点在することが、そしてフィリップ・ルルー Philippe Leroux(1959-)の《AMA(2009)に関しては、異なるスペクトル合成によって生じる連続的音響と非連続的音響が共存するということが分かった。

 スペクトル楽派についての論考は、Dufourt、Fineberg、Gainey、Hasegawa、Whittall、宮川等による電子音楽や管弦楽作品の研究を中心に数多く存在する。一方ピアノ作品に特化した論考は、Nonken の “The Spectral Piano: From Liszt, Scriabin, and Debussy to the Digital Age” が挙げられ、スペクトル的関心とフランス哲学(ベルクソン、ドゥルーズ等)との関連や、楽派成立以前の萌芽的作品から本格的にスペクトル音響が運用された作品に関し論考されている。

 スペクトル音響の技術的展開が多様になったことに対して Gainey は、「スペクトル主義が個人的作曲様式の発展のための柔軟な手段となることよりは、むしろ創作の教条的楽派になることを避けるために、作曲家達は自由に、求められる効果を産み出すあらゆる方法において、音響的研究の原理を応用することを考えているのであろう」(Gainey 2009, 107)と述べている。この指摘が妥当なものとするならば、スペクトル音響に対峙する作曲家個々の方法を解明することは、必ずしも「楽派」として括る事が出来ないスペクトル第2世代の自由さが顕在化することになるだろう。また共通項となるスペクトル音響技法の概念的理解は、第2世代に止まらず「スペクトル楽派」を創出したフランスの20世紀以降における音響構成法の一端の解明に寄与すると考えられる。

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