日本音楽学会第71回全国大会
B-4 高橋健介(東日本支部)
モーツァルトのレチタティーヴォ・セッコにおける通奏低音の定型
──《コシ・ファン・トゥッテ》を中心に──
W. A. モーツァルト(1756〜1791)のレチタティーヴォ・セッコ(以下「セッコ」とする)には、同時代の作曲家にはない表現力がある。その特徴を見出すために、本発表では、《コシ・ファン・トゥッテ Così fan tutte》(1790)に着眼し、セッコの構造の発見と整理を試みる。
モーツァルトのオペラ研究において、セッコに限定した研究は少ない。クーパー(2009)は、モーツァルトと彼の同時代の作曲家のセッコを比較して、モーツァルトの特徴を明らかにし、ダウンズ(1961)は、ナポリ派オペラにおけるセッコの和声進行に言及しているが、いずれも構造を包括的に扱っているわけではない。
発表者は、《コシ・ファン・トゥッテ》のセッコの通奏低音を全て分析した結果、通奏低音の45%にあたる71箇所に見られる定型を見出した。それは、バス音(第1音)が半音上行(第2音)、全音下行(第3音)、さらに半音下行、もしくは全音下行する(第4音)ことによる4音から成る進行である。開始音は多様であるが、この定型がFisから始まる場合を機能和声で示すと「G: Ⅴ1 - Ⅰ - C: Ⅴ73 - Ⅰ1」となる。さらに、この定型は、内部の和声構造やバスの第4音の変化によって、基本形であるメジャー型の他に、マイナー型、ディミニッシュ型、変形型の4種類に分類できる。
また、この定型は二個以上が接続されることがある。二個の定型が1つの和音を共有して接続する場合をコンジャンクト、共有せずに接続する場合をディスジャンクトとして分類した結果、それぞれ13箇所と10箇所に見られた。これらの使用箇所には特徴があり、ほとんど1人の登場人物が長い台詞を話す場合と、複数人が短い台詞でテンポ良く対話する場合に用いられている。
発表では、《コシ・ファン・トゥッテ》を対象に、通奏低音の定型と台本との関係にさらに言及する予定である。