top of page

F-3 千葉 豊(東日本支部)

新即物主義の評価を巡る音楽史記述
──戦前から戦後にかけての変遷──

 

 新即物主義とは、第1次大戦後に絵画領域で現れ始めた「新しいリアリズム」を追求する芸術思潮であり、音楽史においては1920年代後半以降、雑誌や論文の中でこの概念について論じられるようになった。印象主義や表現主義とは異なり、芸術家による何らかのマニフェストが打ち立てられたわけではなく、党派性を確立させるような芸術運動として発展しなかったことは、新即物主義が歴史的に影の薄いものとなった要因の一つであろう。とりわけ、新ウィーン楽派の「進歩的」な作曲技法や第2次大戦後の前衛を「語り継ぐべき歴史」として価値づけしてきた20世紀の音楽史記述にとって、戦間期を象徴する新即物主義に対するラディカルな研究は、第1次大戦から100年を経た今、喫緊の課題と言える。

 本発表の目的は、戦前から戦後にかけての音楽史記述の中で、新即物主義に対する評価がいかに変遷したかを明らかにし、新即物主義を巡る音楽史の価値基準の転換を位置づけることである。H. シュトローベルを始めとする1920~1930年代の評論において、新即物主義は第1次大戦後の社会構造の変化が喚起した新たな時代に適応するものとして捉えられ、戦間期の音楽における「主流」として評価されてきたと言える。一方で、Th. W. アドルノの音楽史記述の中でも特に『新音楽の哲学』(1949)は、新即物主義が20世紀音楽の「亜流」へと追いやられる契機の一つであると考えられるが、同時代に新即物主義の音楽史的意義が必ずしも否定的に評価されていたとは言い難い。

 本発表では、新即物主義が「主流」であり得た時代と「亜流」へと帰された時代の間に存在した音楽史記述を通して、新即物主義が意味するものの多義性を露にすると同時に、音楽史における価値判断の流動性について検証する。そしてこれは、従来の音楽史記述が依存してきた伝統対革新の不均衡を打破するためのヒントを提示する試みでもある。

bottom of page